「UTAU プラグインを作ろうと思うんだけど、プログラミング言語は何が良いんだろう?」

このようなお悩みをたまに見かけますので、今回はそれを考えてみます。

ちなみに、UTAU 以外で既に十分なプログラミング経験のある方は、普段お使いの言語で作れば問題ありません。プラグインの仕様や、各言語での実装例(半音上げプラグイン大会のエントリーなど)を見れば、あっという間に作れるでしょう。

ここでは、あまりプログラミング経験のない方のために考えることにします。

言語選びのポイントは以下です。
  • 世間で人気の言語であること
  • GUI が作りやすいこと
  • プラグイン利用者側の追加ソフトインストールが不要であること
各項目について、次節以降で詳しく見ていきます。

世間で人気の言語であること

夢も希望もない話かもしれませんが、初心者であるほど、長いものに巻かれるほうが無難です。

世間で人気の言語(利用者が多い言語)であれば、入門書や入門サイトも数多く存在しますし、ハウツーやトラブル対策の情報も豊富です。あなたがトラブルに見舞われたとして、人気の言語ならば、他にも多くの人が似たような経験をしているはずなので、すぐに対応策を探せるでしょう。

逆に、マイナー言語の場合、そもそも開発環境自体のバグが残っていたりすることもあり、余計なトラブルに巻き込まれかねません。

TOIBE_201601人気の言語は、TOIBE が定期的に測定しています。クローズドソースも含め、世界で使われている言語を推定しているランキングです。古めの言語の順位が上がってしまう傾向にありますが、十分参考になります。2016 年 1 月のランキングでは、以下の順位です。
  1. Java
  2. C
  3. C++
  4. C#
  5. Python
  6. PHP
  7. Visual Basic .NET
  8. JavaScript
  9. アセンブラ
  10. Ruby
Java は最近ずっと 1 位をキープしています。パソコンの世界だけ見ると Java で作られたアプリはそこまで多く感じられませんが、スマホ(Android)アプリは Java がメインであり、スマホ開発が盛んになっていることの現れでしょう。

C と C++ は順当に高ランキングを獲得していますね。歴史の長い言語なので、直近の勢いという意味ではそれほどではありませんが、しっかりしたライブラリなどの多くは C/C++ ですし、普段使っているようなパソコンソフトだけではなく、裏方(ドライバ、ライブラリ、ファームウェア等)としても様々な場面で使われています。

4 位の C# はメジャー言語の中では後発組です。短期間でランキング上位にのしあがったのは、マイクロソフトの影響力が大きいです。とはいえマイクロソフトの影響力 があるのはパソコンの世界の話で、スマホではあまり影響力はありません。スマホ全盛の時代に高ランキングを獲得しているのは、C# そのものの良さがあるからでしょう。

5 位の Python は、日本ではそこまでメジャーではありません。プロの求人ランキング(横軸)を見ても、マイナー言語と同等の求人件数しかありません。しかし、世界に目を向ければ、Google 先生が Python 押しであることが大きな追い風となり、ホットな言語と言えます。

6~10 位は、アセンブラを除いてお手軽系の言語が並んでいます。

これら 10 言語をおすすめ言語候補として、以降でさらに絞り込んでいきましょう。

GUI が作りやすいこと

ほとんどの UTAU プラグインには GUI(ウィンドウやボタンなどの画面)が必要になってきます。GUI を簡単に作れるかどうかは、生産性に大きく影響します。

言語ランキング 1 位の Java は初期の頃から GUI に力を入れてきており、GUI は作りやすいと言えるでしょう。私自身は Java での GUI 開発経験はありませんが、例えば Java の統合開発環境として使える Eclipse であれば、RAD ツール(GUI をドラッグアンドドロップで簡単に設計できるツール)の Swing Designer が標準搭載されているようです。

言語ランキング 2 位の C での GUI 開発は地獄です。仕事でやむを得ずというのならともかく、UTAU プラグインの GUI を作るために C を用いるのは正気の沙汰ではありません。

言語ランキング 3 位の C++ での GUI 開発は微妙です。

C++ 開発環境の鉄板である Visual Studio において、GUI 開発は以前よりはマシになりました。RAD ツール付きの Visual Studio が無償で利用できるようになったためです。しかし、付属の C++ ライブラリの使い勝手は悪く、慣れるまでにかなりの時間を要するでしょう。

別の C++ 開発環境として C++Builder が挙げられます。優秀な RAD ツールで、効率的に GUI 開発が行えます。しかし、価格が高いこと、バグが多くサポート力も弱いこと(昔のセキュリティーホールが放置されたままになってたります)、(言語としてではなく)ツールとしてのユーザー数が少ないことから、おすすめはできません。

言語ランキング 4 位の C# および 7 位の Visual Basic .NET(以降 VB.NET)は GUI の開発がやりやすくなっています。開発環境は C++ の時と同じく Visual Studio ですが、使い勝手は大きく異なります。C#・VB.NET の場合は GUI が作りやすいように整備されており、また、付属のライブラリ(.NET)も扱いやすいです。

言語ランキング 5 位の Python は、標準では GUI の開発は大変です。RAD ツールとしては Monkey Studio が利用できるようですが、日本語の情報がほとんどありません。しかし、IronPython という、.NET と組み合わせたバージョンの Python は、GUI を開発しやすくなっています。ただし、日本語の情報はあまり多くないようですので、プログラミングに不慣れな人が挑戦しようとすると困難が待ち受けるでしょう。

言語ランキング 6 位の PHP と 8 位の JavaScript はウェブ専用のプログラミング言語なので、今回は除外します。

言語ランキング 9 位のアセンブラでの GUI の開発は……理論上は可能ですね。しかし現実は無理でしょう。

言語ランキング 10 位の Ruby での GUI 開発は、Python と似たような状況です。標準では GUI は作りづらいものの、.NET と組み合わせた IronRuby があります。ただし、IronRuby の開発は止まっており、Python よりも状況は悪いです。

以上により、人気の言語でかつ、標準で GUI 開発を行いやすいのは、Java、C#、VB.NET であることがわかりました。

プラグイン利用者側の追加ソフトインストールが不要であること

UTAU プラグインを使うために、プラグイン以外にも別途あれもこれもソフトをインストールしてください、だと、プラグイン利用者としては不便ですし、インストール作業を面倒くさがってプラグインの利用を諦めてしまうことも多いでしょう。

まず Java ですが、実行ファイルを生成することはできず、別途、JRE(Java Runtime Environment)と呼ばれる追加ソフトが必要となります。残念。

とはいえ、ウェブブラウザのプラグインをインストールする際に一緒に JRE を入れている利用者もいますので、減点要素はそこまで大きくありません。

C#、VB.NET は実行ファイルを生成できます。別途 .NET Framework という追加ソフトが必要となるのですが、Windows に初めからインストールされていたり、あるいはすでに別のソフトを使う際に利用者が自分でインストールしていたりと、たいていの場合はインストールされていることでしょう。とはいえ、.NET Framework のバージョン違いによってインストールが必要になることもあり、減点要素はゼロではありません。

以上により、これまで絞り込んだ言語の中で、この項目を完璧に満たせる言語はありません。

総合評価

ここまでで、有力候補は Java、C#、VB.NET の 3 つに絞られました。この 3 つに順位を付ける場合、私は以下のようにします。
  1. C#
  2. VB.NET
  3. Java
Java は実行ファイルを生成できないので 3 位。実際に UTAU プラグインを配布する際に、一手間必要になってきます。それとは別に、Java は起動が遅いので(一度起動してしまえば早いのですが)、プラグイン利用者がちょっとイライラするかもしれません。

C# と VB.NET を比較すると、機能としては同等なのですが、C# の方が簡潔にプログラムを記述できます。また、よく言われることとして、VB プログラマーの質が低いというのがあります。VB で開発していると、ネットの「知恵」が実は微妙な情報で、それを信じてドツボにハマる、というリスクがあります。

以上により、UTAU プラグインをこれから開発するなら、最もオススメのプログラミング言語は「C#」という判断にいたします。

懸念事項としては、「プログラミング経験の少ない人が C# にチャレンジするのはハードルが高くないか」という問題です。順当に C やあるいは軽量系スクリプト言語の方が習得しやすいかもしれません。とはいえ、UTAU プラグインを作るのが目的であれば、それらの言語では目的を達成するのが困難というのがこれまでの流れです。

これから C# を勉強しはじめる場合、きちんとした書籍を購入して、体系的に C# を理解するのが結局は一番近道だと思います。C# に限りませんが、プログラミングの概念をきちんと理解するのはなかなか大変で、ウェブの Tips をつまみ食いした程度ではその場しのぎの知識しか手に入りません。

とはいえ、まず少し作ってみたいんだ、という場合は、
はいかがでしょうか。GUI アプリを C# で実際に作ってみることができます。また、
の C# の実例(エントリー 3、15、22、27(GUI))も参考になるかと思います。C# 言語の詳細については、プログラミングの基礎的な知識を前提としていますが、

がオンラインの情報としてはまとまっていると思います。


余談

今回は C# 押しということになりました。確かに C# は素晴らしい言語です。
  • 他の言語の良いところを取り入れていて使いやすい
  • GUI・ネットワーク・同期プログラミングなど周辺のライブラリも充実かつ整理されている
  • Visual Studio の支援機能がずば抜けて強力(他の環境を使う気になれないくらい)
しかし、つまるところプログラミング言語なんて何でも良いというのもまた一理あるところです。

最初にメジャー言語で絞り込みましたが、情報収集にもっと労力を注ぎ、不足するところは自分で考えることにすれば、マイナー言語でもいいわけです。例えば Lazarus は無料で GUI を簡単に構築できます。Lazarus に限定するとユーザー数は多くありませんが、Lazarus は言語としては Object Pascal でありそこそこの順位にいますから、悪くない選択肢かもしれません。

今回 1 位と 2 位の C# と VB.NET を比較した場合、VB.NET の良いところは一つも無いと言っても過言ではありませんが、C# と 3 位の Java を比較した場合、UTAU プラグイン以外にも目を向ければ、Java のいいところもたくさんあります。将来 Android アプリも作りたい、ということであれば、その準備を兼ねて Java を選択する、ということも考えられます(逆に Android アプリを C# で作る方法もありますが)。

世界の潮流で言えば、Python は「来てる」言語です。Google のクラウドサービスで何かしようとしたら Python は有力でしょう。その意味では、IronPython も挑戦しがいがあるかもしれません。

C# ももちろんですが、他の言語にも是非目を向けてみてください。